乳幼児揺さぶり事件(傷害)で無罪判決が言い渡されました
令和4年5月9日に、新潟地方裁判所において、生後約5か月だった長女を揺さぶる等し、硬膜下血腫等の傷害を負わせたとして傷害の罪に問われていた父親に対して、無罪判決が言い渡されました。
本事件について、当事務所の小林哲平弁護士が主任弁護人を務めました。
以下に、小林弁護士のコメントを掲載いたします。
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5月9日に新潟SBS事件で無罪判決がなされました。
平成31年から約3年間、山田晶久弁護士と共に国選弁護人として弁護活動を行ってきましたが、概ね弁護側の主張を認める判決がなされ、本当に良かったと思います。
これまで意見書作成や証人尋問でご尽力いただいた弁護側医師の先生方、SBS検証プロジェクトの先生方、たくさんの方々にご協力いただいたおかけでこの結果が得られたのだと思います。
この場をお借りして改めて御礼を申し上げます。
「SBS」とは、shaken baby syndrome(揺さぶられっこ症候群)の略ですが、本件事件では被告人とされた方(以下「父」といいます)が、被害者である自らの子を揺さぶる等の暴行を行った容疑で逮捕・起訴されました。
こういった事件は俗にSBS事件と言われますが、近年、大阪をはじめとし、各地で無罪判決が相次いでおり、本件事件もその流れの一つと見てよいように思います。
これら事件の問題の本質を端的に指摘すれば、十分な証拠もないのにある人が子どもを虐待したと無理矢理推認しようとしてしまう点にあるのだと思います。
本件事件の判決では、検察側の主張の多くについて合理的な疑いが残るとされました。
検察官は、被害者に生じた硬膜下血腫等は強い外力でないと生じないと主張していました。
しかし、ご協力いただいた医師の先生によれば、良性くも膜下腔拡大等がある場合は脳内の架橋静脈が伸展し、破断しやすい状況にあるといえ、本件の被害者もそのような状況であったがために、揺さぶり等の虐待行為ではなく、抱っこ紐で抱っこしている状態で階段を上り下りする等の軽微な外力で硬膜下血腫等が発症した可能性があります。
抱っこ紐を使用した乳幼児全てについて本件被害者と同様の傷害が生じるというわけではなく、あくまで乳幼児の一部に、軽微な外力でも脳内に出血をきたしやすい子がいるということです。
我が子が、脳内に出血をきたしやすい状況にあるかどうかなど、医学の専門家でない人には分かるはずもなく、通常、注意できるようなものでもないと思います。
そもそも、本件被害者の身体に虐待の跡とみられる痣や骨折等の外傷は全くなく、父はそれまで妻や被害者に暴力を振るう等したことはありませんでした。
また、被害者を揺さぶった時刻として検察官が主張した時間帯は、午後7時頃から午後7時6分のわずか数分間で、その間、父と被害者の数メートル先の別の部屋には妻がおり、大きな音を出せばすぐに聞こえてしまう状況でした。
加えて、同日午後6時59分には、父が笑顔で映っている写真が残っています。
これまで全く暴力的な言動を行ったことのない父が、直前に笑顔の写真を妻に撮ってもらっていた状況で、その直後のわずか数分間の間に、少しでも大きな音を立てれば妻が気付くかもしれない場所で、突然、自らの子を強く揺さぶる等の虐待を行うのでしょうか。
こういったことは誰にでも起こり得ることだと思います。
自分は虐待などしていないのに、突然犯罪者扱いされ、愛する我が子を取り上げられ、身体を拘束され、連日、お前がやったんだろうと責められ続ける、こんなことが現代社会で本当に起きています。
検察官は犯罪を立証する側、裁判官はそれを中立公正な立場で裁く側、被疑者・被告人の味方に付くのは弁護士のみです。
本件事件について検察官が控訴すれば、次は控訴審で戦う必要があります。
無罪判決が確定するまで当事者と共に戦っていこうと思います。